岐阜地方裁判所 昭和27年(行)5号 判決
原告 信田金治郎
被告 高富町長
一、主 文
原告の請求はこれを棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
二、事 実
原告は、被告が昭和二十六年度固定資産税課税のため原告所有の岐阜県山県郡高富町千四百五十八番の一、鉄筋コンクリート造浴場建坪十九坪九合につきその価格を金七万一千七百円となした固定資産価格決定はこれを取消す、訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求め、被告訴訟代理人は主文同旨の判決を求めた。
原告は請求原因として、請求の趣旨記載の家屋は原告の所有であるが被告は昭和二十六年度固定資産税課税のための同家屋の固定資産価格を金八万三千三百円と決定しその旨家屋(補充)課税台帳に登録されたので、原告はこれを不服とし昭和二十七年二月三日高富町固定資産評価審査委員会に審査の請求をしたところ、同審査委員会は、審査の結果、同月十九日、右価格を金七万一千七百円と決定、被告は右に基き前記決定を金七万一千七百円に修正した。然し原告は尚右審査委員会の決定に対しても不服であつたので、同月二十九日、岐阜県知事に対し訴願したところ、同知事は同年八月二十九日右訴願を棄却する旨の裁決をなした。然しながら被告のなした右決定は次の如き理由により違法である。即ち本件家屋は浴場であるけれども、物置として利用しているものであつて現在の場所において浴場企業が採算がとれないことは周知の事実であり、且つ右家屋は昭和十一年一月に建築したものであるが、破損が甚しいため、改装のために多額の費用をかけなければ、浴場としては勿論物置以外に利用することは不可能である。従つて本件家屋は物置として使用することが唯一の利用方法に過ぎない廃物同様の家屋であつて、その価格は金二万円以下に過ぎないものであるに拘らず、これを金八万三千三百円(昭和二十七年二月十九日金七万一千七百円に修正)と決定したのは適正な時価によらない違法な決定であるから、その取消を求めるため、本訴を提起した旨陳述した。被告訴訟代理人は本案前の抗弁として、元来、固定資産税は一個の家屋全体の時価を基準として課税すべきものであつて、その家屋を構成する各部分に対して課税するものではないからその基準たる家屋の評価額も一個の家屋につき一個存在するに過ぎない。地方税法施行規則が固定資産課税台帳には一個の家屋につき、一個の評価額を表示すべき旨規定しているのは此の趣旨を規定したものに外ならない。本件家屋はそれ自体独立した一個の家屋ではなく、右の外脱衣場の部分をも加えたものが一個の家屋として課税の対象となつているものであつて、固定資産課税台帳に浴室たる本件家屋の部分と、他の脱衣場の部分の評価額が各別に登録されているのは被告の計算上の便宜に出でたものに過ぎず、家屋の評価決定としては、両者の合算額をもつて一個の決定がなされているものである。従つてその決定の一部たる本件家屋の評価部分のみを訴訟の目的とした本訴は不適法な訴であるといわなければならないから不適法として却下すべきものである。仮りに然らずとするも本訴請求は権利保護の利益を欠く不適法な訴である。けだし本訴請求は、仮りに原告勝訴の判決を受けるも、それによつて直ちに課税処分の取消の効果を生ずるものでもなく、又被告において当然に評価額を修正すべき義務も発生するものではないから原告は本訴によつては何らの法律上の利益をも受け得ないのである。よつて本訴請求は権利保護の利益を欠き不適法であるから却下さるべきであると述べ、次に本案の答弁として、原告の主張事実中、本件家屋が原告の所有であり、被告が昭和二十六年度固定資産税課税のための同家屋の価格を原告主張の如く評価しその旨家屋(補充)課税台帳に記載したこと、原告が之に対しその主張の如く審査の請求、訴願をなしその主張の如き結果となつたこと、本件家屋がその主張の日建築されたものであつて、現在原告が物置として利用していることはいずれも認めるが、その余の事実はすべて争う。本件決定は再建築価格主義に基き適正な時価の評価をなしたものであつて何らの違法もない。即ち地方税法第三百八十八条、第四百一条によれば地方財政委員会並に都道府県知事は固定資産評価の基準、方法等に関し市町村に対し指示、指導をなし、もつてその固定資産評価の合理的な実施を援助すべき旨を規定し昭和二十六年度固定資産価格決定に当つても右条項に基き地方財政委員会並に都道府県知事は家屋の評価につき再建築価格主義によるべきことを指示、指導し、全国の各市町村は、いずれも右による指示指導に基いて、再建築価格主義により家屋の評価を実施したものである。而して適正な時価を算出するためには評価が適正で、算出される価格も亦税負担の公平という見地より均衡を得たものでなければならないが、高富町長も再建築価格主義を以て最もその目的に適合すべき合理的な価格の算定方法と思料し之に基き算定したものである。けだし算定方法としては再建築価格主義の外、売買価格主義、賃貸価格主義を考え得るが前者は偶然的事情に支配されるため、客観的価値の算定が困難で、且つ普遍妥当性を欠き、後者はその基礎となる賃貸価格が設定以来十年余を経過しているため、最早妥当な価値を反映していると認められないから、いずれも欠点が多く結局再建築価格主義によるの他ないのみならず財産税である固定資産税の課税標準の評価はあくまでもその構成要素の価値の判断であるから、再建築価格主義が最も妥当なものといわねばならないからである。尚本件家屋の評価を実施するに当つては本件家屋は遊休家屋であり且つ建築後年数も経ているので、これらの点を考慮し遊休並に損耗度による減価を充分に実施しているのであつて、その時価は金七万一千七百円を下らないものであるから前記評価は適正なものである、かような次第で被告のなした本件決定は何ら違法ではないから原告の本訴請求は失当であると述べた。
原告は被告の右主張事実中被告が再建築価格主義による評価に基き本件決定をなしたものであることは認めるがその余の事実はすべてこれを争う、特に再建築価格主義が合理的な算定方法であるとの点は否認すると述べた(各立証省略)。
三、理 由
先づ被告は、本訴請求は一個の行政行分の一部のみを目的とした不適法な訴である旨抗争するのでその当否について検討してみよう。元来一個の行政処分の一部を目的とした行政処分取消訴訟における原告勝訴の判決は行政処分の一部取消、即ちいわゆる行政処分の変更の効果を生ずるのであるから、行政処分の内容が可分であり、且つその各部分が特定し得るものである限り該部分のみを訴訟の目的として、その取消を訴求することは行政事件訴訟特例法第一条の規定の趣旨よりして当然に許されるものと解しなければならない。けだしかゝる場合には、行政処分の変更を求める訴と同一の趣旨並に効果を有するからである。本訴請求が一個の行政処分の一部のみを目的とした訴であること被告主張のとおりであるとしても、成立に争のない乙第六号証によれば固定資産課税台帳には、本件家屋は他の部分と各別にその評価額が記載せられていることが認められるから、被告のなした固定資産価格決定の内容は、まさに可分であり、且つその各部分は特定し得るものというべきであつて、本訴請求は適法である。被告の右主張は理由がない。
次に被告は本訴請求は権利保護の利益を欠く不適法な訴である旨抗争するが、本訴における原告勝訴の判決が被告主張の如き効果しか有しないものであると否とに論なく、地方税法第四百三十二条乃至第四百三十四条は課税処分とは別個に固定資産課税台帳に登録された事項(本件の場合においては本件家屋の評価決定)について固定資産の納税者に対し行政争訟を許していること明であり、原告が本件家屋の所有者であることは当事者間に争がなく、従つて原告が固定資産税の納税者と認むべきこと明白なる以上、原告に、権利保護の利益なしとなすことができないこと勿論であるから被告の右主張も亦その理由がない。そこで進んで本案について判断することゝする。
本件家屋が原告の所有であり、被告は昭和二十六年度固定資産税課税のため、同家屋の個定資産価格を金八万三千三百円と決定しその旨家屋(補充)課税台帳に登録したこと、原告は高富町固定資産評価審査委員会に審査の請求をなし、同委員会は、原告主張の日、右価格を金七万一千七百円と決定し、被告は右に基き、その価格を金七万一千七百円と修正したこと、更に原告はその主張の日岐阜県知事に訴願したが、同知事は右訴願棄却の裁決をしたことはいずれも当事者間に争がない。而して被告が本件家屋の評価に当つて再建築価格主義によつたことは当事者間に争がないから、先づ再建築価格主義の当否について検討してみよう。元来固定資産税はいわゆる収益的財産税であつて、その課税客体たる固定資産とは資本を資産の形で所有しているもの、換言すれば、それは交換価値を目的として所有するものではなく、これを使用し収益する価値に着目して所有するものであつて、固定資産はこれを使用、収益するところにその財産価値が見出されるものである。従つて地方税法第三百四十一条第五号にいわゆる適正な時価とは、これを処分するときの価格ではなくその現況において再取得する場合の価格であると解するのが相当である。かように見てくると家屋の課税標準たる価格の評価に当つては、再建築価格に損耗度による減価、利用価値による増減価等をなすいわゆる再建築価格主義によるを最も妥当といわねばならない。のみならず、証人杉山仁三郎の証言(第一回)により成立を是認すべき乙第一ないし第四号証、並に証人山本明の証言を綜合すれば、昭和二十六年度固定資産価格決定に当つては地方財政委員会並に知事は地方税法第三百八十八条、第四百一条に基き家屋の評価につき、再建築価格主義によるべきことを指示し、且つその実施方法につき種々指導を実施したこと、全国の各市町村においても、いずれも再建築価格主義によりその評価を実施したことが認められるから、右の方法が特に条理に反するものでない限り、その方法により評価を実施したことは妥当な評価方法によつたものと認めるのが相当である。而して売買価格主義賃貸価格主義に被告主張の如き欠点があり、且つ特に再建築価格主義が条理に反するものと認むべき理由がない以上、被告が再建築価格主義により本件家屋を評価したことは適法な措置であるといわねばならない。そこで以下本件家屋に対する具体的な評価が右の方法に則して如何に運用せられたかの点について検討してみよう。本件家屋が昭和十一年一月に建築されたものであり、原告は現在、これを物置として利用しているものであることは当事者間に争がなく、検証の結果によれば本件家屋は相当に破損していることが認められる。而して証人杉山仁三郎の証言(第二回)により成立を是認すべき乙第五号証に、同証人の証言(第一、二回)を綜合すれば、被告が本件家屋の評価をなすに当つては、高富町内における標準家屋三十六戸を選定し、これをその家屋の構造、損耗度等を考慮して二十七等級に分ち、その再取得価格を算定した後、本件家屋については前記の如き遊休性損耗度等を考慮して、これを十六等級と決定し、その再取得価格を坪当り金四千三百円、合計金八万五千五百円と算定し尚本件家屋は高富町における一級地上に存するので、これによる利用度の増価として右の価格にその十五パーセントを加算し、結局その評価額を金八万三千三百円と決定したものであることが認められ、鑑定人向井勇平の鑑定並に検証の各結果を綜合すれば、右評価額は必ずしも不当に高価なものでないことを認めることができる。而して右評価額がその後金七万一千七百円に修正決定せられたこと前記認定のとおりである。原告は本件場所においては浴場企業は採算がとれず、又本件家屋の破損甚しきため、経営不可能である旨主張し、固定資産税の前記の如き収益的財産税たる性格を考慮するときは、若し右の如き事情が存するときは少くとも本件家屋を浴場として評価課税するのは不当と考えられ、且つ証人松久ひでの証言並に原告本人の供述の一部によれば、本件浴場は、過去においては採算がとれず、昭和十六、七年頃燃料統制等のため廃業して今日に至つているものであることが認められるけれども、当時より約十年以上を経過した今日直ちに右の事情をもつて、現在においても浴場企業が採算がとれないということはできず却つて証人杉山仁三郎の証言(第一回)によれば、戦後、高富町においては本件家屋を買受けて町営浴場を経営すべき計画すらあつた事実が認められるから本件家屋において浴場企業が採算がとれないため経営不可能なりとなすことはできない。又前記認定の如く、本件家屋は相当破損しているけれども、検証の結果によれば、修理を加えれば湯屋営業が可能なことが認められ且つ右の如き損耗度は価格評価に際し、斟酌せられていること前記認定のとおりであるから、原告の右主張はその理由がない。かように見てくると本件決定は何ら不当の点はなく、原告の主張はその理由がないものといわねばならない。
以上の理由により原告の本訴請求は失当であるからこれを棄却すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 奥村義雄 小淵連 佐々木史朗)